那覇地方裁判所 1966年(ワ)188号 判決
原告
石川元安
右訴訟代理人
天願俊貞
外一名
被告
合資会社 湧川商会
右代表者
湧川善太郎
右訴訟代理人
宮良長辰
外一名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者双方の求めた裁判
一、原告
1 被告は原告に対し金一、八三〇万円および右金員に対する昭和三九年一月二三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 1 2の判決に対する仮執行の宣言。
二、被告
主文同旨。
第二 当事者双方の主張
一、原告の請求原因
(一)(本件火災の発生)
一九六四年(昭和三九年)一月二二日午後五時ころ、被告の所有する別紙物件目録記載の(一)の建物(以下本件倉庫という)から出火し、原告所有の同目録記載の(二)の建物(以下焼毀建物という)に延焼した(以下これを本件火災という)。
(二)(本件火災発生の原因)
本件火災は教護施設をぬけだした訴外乙田一郎(仮名)外二名の不良児が本件倉庫内に床下からもぐり込み同倉庫内において喫煙した際、そのうちの一人が同所にあつた荷造り用のカンナ屑に火をつけ遊んでいたところ、その火勢が強くなつたことに驚き、消火の措置を講じないでこれを放置したまま逃走したために発生したものである。
(三)(被告の責任)
本件火災は、被告が本件倉庫に対する防火上の管理義務を怠つたために発生したものである。すなわち、当時、本件倉庫は、その南側出入口の敷居と床下地面との間に約三〇糎の隙間があつて地面を這うとその内部に自由に出入できる状態にあり、乙田ら不良児もここから本件倉庫内に侵入し前記(二)のとおりの火遊びをなし、それが本件火災の原因となつたものであるが、右倉庫については既に、本件火災発生の前年にあたる一九六三年(昭和三八年)三月ころにも不良児による火の不始末からボヤ騒ぎを起し、それがため、被告は同倉庫から僅か一米六〇糎しか離れていない本件焼毀建物の所有者である原告から同倉庫からの失火による延焼の危険があるとの理由で、これが撤去の申入れを受けており、しかも、当時、被告は本件倉庫内に中古タイヤ(二一本)、ゴムホース、荷造用カンナ屑、ダンボール、ベニヤ板等の可燃物の外にグリス、スピンドル、オイル、ガソリンなどの油脂類の引火物等、火災が発生した場合には消火活動の困難な物品を保管していたのであり、したがつて、被告としては、当時、本件火災の発生を未然に防止するために不良児が本件倉庫内へ侵入できないように、前記床下の隙間を完全に塞ぐか、管理人を置いて充分に監視させるか、若しこれらの手段を講じないとすれば前記可燃物とか引火物の収納を避けなければ、前記(二)(本件火災発生の原因)に記載のように不良児の侵入による火災が発生し、原告所有の本件焼毀建物に延焼することを極めてわずかの注意を払いさえすれば容易に予見できたのに拘らず、被告は重大な過失によつてこれを見すごし、右措置を講じなかつたため、前記(一)のとおりの本件火災が発生したものである。
よつて、被告は原告に対し民法七〇九条および失火ノ責任ニ関スル法律(以下単に失火法という)に基づき本件火災によつて原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。
(四)(損害)<以下略>
理由
一請求原因(一)(本件火災の発生)および(二)(本件火災発生の原因)の事実については当事者間に争いがない。
二そこで、同(三)(被告の責任)について検討する。
(一) <証拠>によると、本件倉庫では、本件火災発生の前年にあたる一九六三年(昭和三八年)三月ころ、戸締りをしていなかつたために原因不明のボヤ騒ぎがあつたこと、そこで、被告会社としては右倉庫に対する戸締りを厳重にして、その東側の部屋の出入口の戸のみ施錠して出入ができるようにしたが、他の出入口は総て戸を釘で打ちつけて開閉困難とすると同時に侵入のおそれのある総ての窓についても釘づけをして開閉困難とする措置を講じたこと、しかしながら、本件倉庫の南側出入口の釘づけされた戸の敷居と床下地面との間には約三〇糎の隙間があり、それをふさぐ措置を講じていなかつたこと、それがため、乙田ら不良児は、かねてからここから匍匐して本件倉庫内に侵入し、同所内を喫煙場所として利用しており、本件火災当時も、右侵入口より本件倉庫内に侵入し請求原因(二)(本件火災発生の原因)記載のとおりの火遊びをなし、同(一)(本件火災の発生)記載のとおりの火災が発生したものであること、もつとも、被告としては乙田らがかねてから本件倉庫内に前記のような方法で侵入していたことについては全然知らなかつたこと、また、本件火災当時本件倉庫内には中古タイヤ(二一本)、ゴムホース、荷造用カンナ屑、ダンボール、天幕、ベニヤ板等の可燃物の外にグリス、スピンドル、オイル、ガソリン等少量の油脂類の引火物が保管されており、これらが本件火災における火勢を強める役目を果して、発火後数分にして本件倉庫から一、六米離れている原告所有の本件焼毀建物に飛火引火するに至つたことの各事実を認めることができ、右認定に牴触する前記証人山里将淳、同親川孝行、同石川元繁、原告本人、被告会社代表者本人の供述部分は右認定事実に照らして措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠もない。
右認定事実によると、被告会社は、本件火災の前年に本件倉庫の戸締りを充分にしなかつたことからボヤ騒ぎを起しており、また、本件火災当時本件倉庫内に荷造用カンナ屑などの可燃物の外に少量ではあるが油脂類の引火物をも保管していたにもかかわらず、本件倉庫の出入口のうち東側出入口の戸の敷居と床下地面との間にあつた約三〇糎の隙間をそのまま放置していたために、前記認定のとおり乙田ら不良児が本件倉庫内へ侵入することを防止できなかつたものであり、この点について被告に本件火災防止についての過失があることは否定できないが、しかし、被告が本件火災当時、本件倉庫の出入口および窓につき釘づけまたは施錠をして、右倉庫内を利用する目的での外部からの侵入を防止するため通常必要とされる一応の手段を講じていること、当時、被告において、乙田ら不良児がかねてから僅か三〇糎の前記隙間から本件倉庫内に侵入していたことを知らず、しかも、このような不良児の侵入を被告が当時当然に予測できたと認めるに足りる証拠もないことからすると、被告の右過失をもつて、被告に本件火災につき失火法所定の重大な過失があつたとまでは断定することはできないし、他に、被告に本件火災防止につき重大な過失があつたと認めるに足りる証拠もない。
なお、原告は被告に本件倉庫への不良児の侵入を防止する措置として監視人を置くべき義務がある旨主張するが、前記認定の事実、特に本件倉庫内に保管していた引火物が少量であるところからみて被告に当時本件倉庫に対して監視人を置くべき義務があるとまでは判断し難く、他に右原告の主張を認めるに足りる証拠もない。
(二) してみると、原告の本訴請求は、被告に本件火災に対する過失は認められるとしても、失火法所定の重大な過失があるとまでは認められないので、その余の主張事実につき判断するまでもなく失当である。
三よつて、原告の本訴請求は理由がないことに帰するからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(山口和男 喜如嘉貢 仲宗根一郎)
物件目録<省略>